視野が広がり、内面的にも成長させてくれたWISE-SSSでの研究生活
レンズレスカメラの画質を飛躍的に向上させることに成功
大学では次世代の画像認識技術を研究していました。現在、写真を撮るにはレンズが必要ですが、レンズを使ったカメラはサイズが大きく、コストもかかるため、将来、IoT化が進むともっと小型で低価格のカメラが必要になります。そこで注目したのが、レンズのない「レンズレスカメラ」です。レンズレスカメラの強みはサイズが小さいことと安価であることで、IoTの時代にとてもマッチしていると思います。
レンズレスカメラのセンサーで得られるパターンは、人が見ても何が写っているかわかりません。このパターンから数学的な処理によって人が認識できる画像をつくるのですが、これまでは処理に時間がかかり、また得られる画像も品質が低いという問題がありました。そこで私たちはレンズレスカメラの物理的な特性を研究し、これまでとは違う方法を模索しました。そして、自然言語処理でよく用いられている、 深層学習による画像認識モデルのひとつであるビジョントランスフォーマーを活用することにしました。その結果、短い処理時間で、従来のカメラで撮影したのと同じくらいきれいな画像を得ることに成功しました。この成果は多くのニュースにも取り上げていただきました。
企業の研究者との出会いが視野を広げてくれた
WISE-SSSではさまざまな経験をしましたが、なかでも企業の研究者との出会いで私の視野は大きく広がりました。彼らは、自分の研究が製品や市場とどのように結びつくかをよく理解して研究をしています。その姿に触発されて、研究結果は専門誌に載せるだけでなく、製品としてきちんと世の中に出すべきだと考えるようになりました。例えば実用化という面からレンズレスカメラを見ると、サイズやコスト、処理時間などが大事になります。市場について、また製品になるにはどうしたらいいかといったことも、WISE-SSSでは知ることができました。
WISE-SSSでは、アクティブに活動することやコミュニケーションを図ること、リーダーシップを取ってプロジェクトを推進することなども求められ、自分自身、少しずつそのように変わっていったことを実感しています。現在勤めている会社では、大学時代の専門分野とは少し違う分野の研究に携わっていますが、そうした内面的に成長した部分が非常に役立っていると感じています。
プロフィール
潘 秀曦
1991年生まれ、中国・福建省出身。ハルビン工業大学を卒業後、2年間、半導体工場に勤務。2017年に来日し、早稲田大学大学院先進理工学研究科で修士課程修了。2022年工学院情報通信系情報通信コース博士後期課程修了。博士(工学)。現在は、株式会社センスタイムジャパンでコンピュータービジョンの研究員として勤務。